複数のM&A仲介会社にて、コンサルタントとして活動してきた経験をベースに、一般的なM&A仲介の業務の流れを解説します。
転職を検討している人向けの内容です。
M&A仲介業務の各工程は各社で色々な呼び方がありますがここでは、ソーシング、マッチング、エグゼキューションに分けて考えていきます。
ちなみに、M&Aはよく結婚にたとえられますが、今回はより分かりやすくするために結婚になぞらえて解説します。
M&A仲介の立場は仲人(なこうど)と近しくなります。
ソーシング
ここでは、譲渡案件の発掘から買い手候補に提案する手前までと定義します。
M&A仲介会社は、このソーシングが一番大切になります。そもそも案件が無ければ仲介会社は何もできないからです。
譲渡ニーズ発掘
譲渡ニーズの発掘方法は大きく分けて二通りあります。
- 会社あるいは事業の譲渡を考えているオーナー・企業を紹介してもらう
- コールドコールなどで、ダイレクトに譲渡候補企業を発掘する
紹介者として一般的なのは、金融機関、税理士・会計士です。
比較的業歴のある会社は、紹介者のルートができあがっていますが、基本的には新人はこのルートを使うことはできないと思っておいた方が良いです。
したがって、ここでは②の直接譲渡候補企業を発掘するスタイルの業務内容について解説していきます。
仲介会社が結婚相談所だとすると、ソーシングは入会者発掘になります。
男性にしても女性にしても魅力的な方に入会してもらえれば、それだけ成婚する確率も上がるので、各社は魅力的な企業を探そうと活動しています。
DM発送・コールドコール
M&A仲介会社に入社して、初期的な研修を受けたらこのソーシングから業務をスタートすることになるのが一般的です。
自分でリストを作るか、買い手候補と協議しながらアタックリストを作ってアプローチすることもあります。
基本的には、DMを発送した後に反応が無かった企業にフォローコールをしてアポイントを取っていきます。
手持ちの案件が無い新人は毎日この作業をすることになります。
100件以上電話をかけることも珍しくありません。
徐々に案件が獲得できてきて、忙しくなったとしても新規開拓は止められません。
成約すれば手持ちの案件はゼロとなってしまい、翌年の実績がゼロとなる可能性があるからです。
業務量の濃淡はありますが、基本的には常に新規開拓をし続けます。
初回訪問~受託
譲渡を検討している会社の株主と面談します。株主の意向を確認し、譲渡の検討を進めることで合意したら仲介会社とアドバイザリー契約書(提携仲介契約書)を締結します。
結婚を考えていない男女に、結婚相談所に入会させるような働きかけをするようなイメージです。
- 将来的には結婚を考えているけれど、今はしないと考えている人
- 結婚なんてしたくないと思っている人
上記のような方に対して入会してもらえるように、手を変え品を変え働きかけていくようなイメージです。
案件化
受託した企業について、ビジネスモデルの整理、強み・弱みの整理、法務・税務・労務などの観点からの論点整理を行い企業概要書(企業の説明書のようなもの)に落とし込んでいきます。
オーナーに数十種類に及ぶ資料を要求し、数時間に及ぶインタビューが必要な作業になるので、骨が折れる作業になります。
ただ、ここで論点を整理しきることで今後の交渉が安定していくので気が抜けない作業です。
案件化はお見合いのプロフィール作成のイメージです。
見栄えが良くなるように写真にも手をかけますし、記載する内容も良い点だけでなく注意点も記載することで、よりマッチしたお相手を見つけられる可能性が高くなります。
マッチング
お相手探し
受託した企業にマッチしそうな企業をリストアップし、1件ずつ打診していきます。
数十社打診しただけで、複数社から手が挙がることもあれば数百社打診しても手が挙がらないこともあります。
相手が見つからない場合は、M&Aのマッチングプラットフォームを活用したりもします。
ソーシング時に、お相手探しに苦労するかは大体予想がつきます。
お見合いで考えるとイケメンで高年収であれば引く手数多であることが想像できると思いますが、感覚的にはこれと似ています。
M&Aの場合は、M&Aが盛んな業種か、財務状況は良好か、他社が欲しがるような技術を持っているか、などの観点で予想がつきます。
トップ面談
いわゆるお見合いです。M&Aをするだけのメリットが双方にあるのかどうか、企業概要書では分からない定性的な部分について、意見交換を通して相性を判断していきます。
複数社から手が挙がっている場合は、買い手企業としては自社を選んでもらわなければいけないので売り手に振り向いてもらえるような演出をすることもあります。
意向表明提出・受け入れ
トップ面談を経て、買い手企業が一緒になりたいと思った場合は意向表明書を売り手に提出します。
意向表明書には、現時点での譲受価格、譲受後の経営体制などの条件面が記載されています。
ラブレターのようなものなので、買い手の競争相手(ライバル)がいるようであればトップ面談で出てきた内容などを盛り込むこともあります。
売り手は提出された意向表明を受け入れるか決断をします。何十年も経営してきた企業を渡す相手がどこか、渡したらどうなりそうか具体的に想像できるタイミングなので重要な決断となります。
ここから先は、意向表明を受け入れた企業だけと独占的に交渉していくフェーズになります。
エグゼキューション
基本合意締結
意向表明書に記載された内容を盛り込んだ内容になります。
経済条件を含めた各種条件、独占交渉権の付与、買収監査のスケジュールなどが盛り込まれています。
デューデリジェンス
案件化時に論点となりそうな事項をより詳細に調査したり、新たな論点が無いかを網羅的に確認するフェーズです。
日本語では、買収監査となります。監査という言葉から、嫌なイメージを抱かれるケースが多いですが、一緒になった後にどのように経営のバトンタッチを進めていくのが一番最適か話し合う場でもあります。
デューデリジェンスは結婚前の人間ドッグのようなものです。事前に申告した内容が真実で、その後新たな問題が発生していなければ何もなく話が進んでいきます。
ただ、売り手が問題だと思っていなくても買い手から見れば問題だと思うこともあったりするので、仲介会社が案件化時に買い手の目を持ってしっかりと調査していくことが重要です。
最終契約締結・クロージング
デューデリジェンスの結果を踏まえて、最終的にどのような条件でM&Aを実行するかを協議していきます。
売り手や買い手の意向を踏まえて、仲介者として中立的に交渉していきます。
条件に折り合いがつけば、最終契約書を締結します。
最終契約書にはクロージング条件が付くことがあります。取引先の同意やキーマンとなる従業員の継続勤務確認などです。
最終契約締結後、クロージング条件を満たしていることが確認できれば、晴れてクロージングとなります。
まとめ
この一連の流れを何件も並行して行っていくのがM&A仲介の仕事になります。
一案件成約するまでに9カ月から1年くらいかかるのが一般的ですが、中には2年以上かかることもあります。
当然業務量は多く、関係者の利害調整がハードなこともあり肉体的・精神的に削られることもありますがやりがいのある仕事だと個人的には思います。
転職を考えていて、やりがいのある仕事をしたくて、忙しい仕事も苦にならないという方は選択肢の一つになると思います。